【意外】日本の18歳『人生で最重要「好きなこと/やりたいこと」』が世界トップ!?「夢」の扱い方のプロに学ぶ、長く夢を追う方法とは。

一般社団法人ユースキャリア教育機構・研究員の井上寛人です。

2025年7月から始まった本連載では、

どうすれば、自己実現を目指す若者の離脱率が低いコミュニティをデザインできるか?

という問いを探究してきました。

その問いにより深く向き合うために先日の記事にて、『若者が夢を諦めるメカニズムの探索的調査と、構造的な解決策の検討プロジェクト』を立ち上げました。

ブレインストーミングと類型化を行う中で見えてきたのは、「若者が夢を諦める4つのフェーズ」でした。

前回記事はこちら:
https://oyce.co.jp/columns/knowhow/dream-abandonment-mechanism-project/

今回はその中の「フェーズ2:理想と現実のギャップ期」について詳しく述べていきます。
最後まで楽しんでいただけたら幸いです!

若者は「自分らしく生きたい」と強く願っている

日本の若者は、「自分らしく生きたい」という願いを強く持っています。
しかし、その願いがそのまま安心感や満足感につながっているわけではなさそうです。

日本財団(2026)の「18歳意識調査」では、日本・アメリカ・イギリス・中国・韓国・インドの6カ国、各国1,000名、合計6,000名の17〜19歳を対象に、国や社会に対する意識が調査されています。

この調査で特徴的だったのは、人生で大切にしたいものを3つまで選ぶ設問で、日本の若者の48.0%が「自身の好きなことややりたいこと・趣味」を選び、6カ国の中で日本だけがこの項目を1位にしていたことです。

一方で、「自国の将来が良くなる」と答えた日本の若者は15.6%にとどまり、6カ国中で最も低い結果でした。最も高かったインドでは61.8%、中国では54.8%が「良くなる」と答えています。

また、「自分の人生」に満足していると答えた日本の若者は63.3%でした。見方を変えれば、3人に1人以上は、自分の人生に満足しているとは答えていないことになります。

つまり、日本の若者は「自分の好きなこと」や「やりたいこと」を大切にしたいと願っている一方で、自分の人生への満足感や、社会の将来への希望は、十分に持ちにくい状況にあるのかもしれません。

理想と現実のギャップが、自己否定に変わるとき

自己実現に向かって頑張る人ほど、自分への期待値も高くなりやすいように思います。

「もっと成果を出したい」
「早く何者かになりたい」
「周りから信頼される存在になりたい」

こうした気持ちは、挑戦や成長の原動力になります。

けれど、その期待がいつの間にか、

「これくらいできないと、自分には価値がない」
「成果が出ていない自分はダメだ」
「理想に届かない自分は、まだ認められない」

という自己否定の理由になってしまうことがあります。

本当は、うまくいかなかったのは、一つの行動や挑戦。けれど、成果が出ない経験が続くと、いつの間にか「自分の存在には価値がない」という話にすり替わってしまう。

この状態が続くと、挑戦そのものが苦しくなっていきます。

それは「意志の弱さ」ではなく、心の資源が減っているサインかも

ここで参考になるのが、バーンアウトの研究です。

バーンアウトとは、もともと医療・福祉・教育など、人を支援する仕事の中で注目されてきた概念です。日本語では「燃え尽き症候群」と訳されることもあります。

久保・田尾(1994)は、バーンアウトを次の3つの側面から捉えています。

  • 情緒的消耗感:心のエネルギーを使い果たしてしまったような状態
  • 脱人格化:相手に対して冷たく、機械的に接してしまう状態
  • 個人的達成感の低下:「自分は役に立てている」「成果を出せている」という感覚が下がる状態

大切なのは、バーンアウトは単なる「疲れ」ではないということです。

久保氏は、バーンアウトを「完全燃焼」というより、「燃えたかったのに燃えられなかった不完全燃焼」に近いものとして説明しています。

「本当はもっとできるはずだった」
「もっと役に立てると思っていた」
「頑張ったのに、手応えが得られなかった」

そうした感覚が積み重なり、心が消耗していくのです。

これは、自己実現に向かう若者にも重なります。

「もっと成長したい」
「誰かの役に立ちたい」
「自分の力で価値を生み出したい」

そうした思いがあるからこそ、現実が理想に届かないときに深く傷ついてしまう。

だから、挑戦の途中で疲れることは、必ずしも意志が弱いからではありません。
むしろ、理想や責任感が強いことの裏返しと言えるかもしれません。

若い時期は、理想に向かうための資源を育てている途中

久保・田尾(1994)は、看護婦726名を対象に、ストレスとバーンアウトの関係を調査しました。

その結果、40歳未満の看護婦は、40歳以上の看護婦よりも情緒的消耗感が高く、個人的達成感が低い傾向がありました。
また、勤務年数11年未満の看護婦は、11年以上の看護婦よりも情緒的消耗感が高く、個人的達成感が低い傾向を示していました。

この要因は、若い時期や経験の浅い時期には、理想や自分への期待値に対して、それを実現する経験・スキル・ストレス対処・裁量・相談資源がまだ十分に育っていないことが考えられます。

「こうありたい」という気持ちはある。でも、実力は、まだ成長途中。
このギャップが、燃え尽きやすさにつながるのだと思います。

働く人のストレスや健康を扱う産業ストレス研究では、仕事の負担だけでなく、自分を支える資源とのバランスも重視されています。

島津(2025)は、仕事要求度・仕事資源モデル(JD-Rモデル)を紹介し、仕事量や時間的プレッシャーのような「仕事の要求度」と、裁量、支援、フィードバック、役割の明確さ、学習機会のような「仕事の資源」が、バーンアウトやワーク・エンゲイジメントに関わることを整理しています。

自己実現への挑戦も同じように、理想や責任が大きくなるほど、それを支える経験・仲間・相談先・フィードバックといった資源を育てていくことが、長く挑戦を続けるために大切なのだと思います。

理想を下げるのではなく、扱い方を変える

では、理想と現実のギャップに苦しくなったとき、どうすればよいのでしょうか。

大切なのは、理想を下げることではなく、理想との付き合い方を変えることです。

ここからは、そのための3つの方法を考えていきます。

1. 成果だけで自己価値を測らない

理想と現実のギャップに苦しくなったとき、まず大切にしたいのは、成果だけで自分の価値を測りすぎないことです。

ここで参考になるのが、「本来感」すなわち「自分らしくある感覚」という考え方です。

伊藤・小玉(2005)は、本来感を「自分自身に感じる自分の中核的な本当らしさの感覚」と捉え、本来感と自尊感情がウェルビーイングに与える影響を検討しました。

その結果、単に自尊感情が高いことだけでなく、自分自身の意思や気持ちに基づいて生きているという本来感が、ウェルビーイングに重要な影響を与えることが示されています。

特に青年期は、「自分とは何か」「自分は何を大切にしたいのか」を模索する時期です。だからこそ、成果や評価だけでなく、「自分らしくいられているか」という感覚が大切になります。

さらに、酒巻・福岡(2021)は、大学生179名、平均年齢19.41歳を対象に、本来感と援助要請スタイル、心理的ウェルビーイング、抑うつとの関連を検討しました。

その結果、本来感が高い人ほど、抑うつは低く、人格的成長や自律性は高い傾向が示されました。また、本来感が高い人ほど、必要に応じて他者に相談する「自立型」の援助要請をしやすく、相談を避ける「回避型」の行動は少ない傾向がありました。

ここから考えると、大切なのは、「成果が出ているから、自分には価値がある」と思えることだけではありません。

「まだ未熟だけれど、自分らしい挑戦を続けられている」
「今回は上手くいかなかったけれど、大切な気づきがあった」
「今の挑戦は、自分が本当に大事にしたいこととつながっている」

そう思える感覚も、心を支えてくれます。

もう一つ大切なのは、自分の見方を一つに絞りすぎないことです。

川人ら(2010)は、自己複雑性という考え方に注目しています。
これは、自分の中にどれくらい多様な側面があるかということです。

私たちは一人の中に、いろいろな自分を持っています。

「経営者として成果を出そうとする自分」
「学生として学び続ける自分」
「友達とくだらないことで笑い合える自分」
「恋人に甘え、甘えられる自分」
「趣味を純粋に楽しんでいる自分」

このように、自分の中に複数の側面があると、一つの失敗が自分全体の否定になりにくくなります。

成果を見つめることと同じくらい、「自分らしい方向に進めているか」を見つめること。
それが、理想を持ちながらも心をすり減らしすぎないための大切な視点なのだと思います。

2. 大きな理想を、小さな学習目標に分ける

次に大切なのは、大きな理想を小さな学習目標に分けることです。

心理学では、目標を「成果を出す」成果目標に向けるのか、「学び、成長する」学習目標に向けるのかによって、その後の行動や感情が変わることが示されています。

Elliott & Dweck(1988)は、能力を証明しようとする遂行目標よりも、能力を伸ばそうとする学習目標の方が、失敗時にも挑戦を続けやすいことを示しました。

また、Seijts & Latham(2005)は、新しいことや複雑な課題に取り組む場面では、成果目標よりも学習目標を設定することが有効だと論じています。

自己実現への挑戦は、多くの場合、とても複雑です。

起業、プロジェクトづくり、コミュニティ運営、社会課題の解決、キャリア形成。どれも、すぐに結果が出るものではありません。
そのような複雑な挑戦では、いきなり成果だけで自分を評価するよりも、「今日は何を学べたか」「次に何を試せるか」に目を向けることが大切です。

大きな理想と小さな学習目標。
この2つを分けて考えることで、高い理想を持ちながらも、日々の挑戦を続けやすくなります。

3. 一人で抱え込まず、支援資源を増やす

最後に大切なのが、環境です。

若い人や経験の浅い人が燃え尽きやすい要因の一つは、理想に対して経験やスキルや支援資源がまだ十分ではないことにあります。

そんなときに支えになってくれるなのは、自分の挑戦を応援してくれる環境です。

未熟な状態でも挑戦できる環境。
小さな前進を見つけてくれる仲間。
困ったときに相談できる先輩。

こうした環境があることで、理想と現実のギャップは、成長のための課題として扱いやすくなります。

島津(2025)が紹介する研究では、学習の機会、フィードバック、役割の明確さ、上司や同僚の支援が、ワーク・エンゲイジメントと関連していることが示されています。

つまり、若者が自分らしく挑戦を続けるためには、
学べる機会、具体的なフィードバック、明確な役割、相談できる人間関係が必要なのです。

また、久保氏はバーンアウトを防ぐ姿勢として、「突き放した関心」という考え方を紹介しています。これは、相手や目標に誠実に向き合いながらも、「自分ができること」と「自分だけではどうにもできないこと」を冷静に分けて考える姿勢です。

ここまでは自分が努力する。
ここから先は、環境やタイミングや他者との関係にも左右される。
今の自分にできる貢献はここまでだと、一度線を引いてみる。

そうすることで理想を大切にしながらも、自分を燃やし尽くさずに進みやすくなります。
その結果、私たちは自己実現への挑戦を続けやすくなるでしょう。

理想を、足枷ではなく灯火にする

高い理想を持つことは、自分の努力を推進するエンジンになります。

「もっと良くしたい」
「もっと役に立ちたい」
「もっと自分の可能性を広げたい」

そう思えること自体が、感受性や誠実さ、成長意欲の表れでもあります。

ただし、その理想が「今の自分を責める足枷」になってしまうと、心は少しずつ疲れていきます。

今の自分が理想に届いていないとしても、それはまだ経験が足りないだけかもしれない。スキルが育っている途中かもしれない。自分に合った環境や仲間に、まだ出会えていないだけかもしれない。

高い理想を、小さな学習目標に分けてみる。
成果を出す自分だけでなく、学び続ける自分も認める。
一人で抱え込まず、安心して挑戦できる環境に身を置く。

そして、自分を燃やし尽くすのではなく、自分の火を長く灯し続ける。
自己実現に向かう若者にとって本当に大切なのは、そのような挑戦の続け方なのだと思います。


著者:井上寛人

一般社団法人ユースキャリア教育機構・研究員。ソーシャルアントレプレナーのウェルビーイングを探究する研究者/実務家。明治大学在学中に若者による環境運動「Fridays For Future Tokyo」の立ち上げに関わり、自身や仲間の燃え尽き症候群を目の当たりにしたことをきっかけに、挑戦する人の心が壊れずにすむ社会のあり方を探究してきた。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。現在は武蔵野大学大学院ウェルビーイング研究科に在籍し、社会起業家をはじめとするソーシャルセクターのリーダーが抱える構造的ストレスの緩和と予防をテーマに研究している。


参考文献

[1] 日本財団(2026)「18歳意識調査 国や社会に対する意識 6カ国調査」
[2] 久保真人・田尾雅夫(1994)「看護婦におけるバーンアウト:ストレスとバーンアウトとの関係」
[3] 久保真人(2007)「バーンアウト:ヒューマンサービス職のストレス」
[4] 流石香織(2023)「『バーンアウト(燃え尽き症候群)』は失恋と似ている。燃え尽きないための『突き放した関心』などの対処法:同志社大 久保真人教授」Awarefy コグラボ, 2023年1月23日公開, 2026年1月12日更新. https://www.awarefy.com/coglabo/post/kubomakoto_burnout/
[5] 島津明人(2025)「ワーク・エンゲイジメント:研究と実践における最近10年の動向」
[6] 伊藤正哉・小玉正博(2005)「自分らしくある感覚(本来感)と自尊感情がwell-beingに及ぼす影響の検討」
[7] 酒巻里菜・福岡欣治(2021)「大学生における本来感が援助要請スタイルを介して心理的ウェルビーイングおよび抑うつに及ぼす影響」
[8] 川人潤子ほか(2010)「大学生の抑うつ予防のための自己複雑性介入プログラムの効果」
[9] Elliott, E. S., & Dweck, C. S.(1988)Goals: An approach to motivation and achievement.
[10] Seijts, G. H., & Latham, G. P.(2005)Learning versus performance goals: When should each be used?