若者が夢を諦めるのはどんなときか?― 「夢を諦めるメカニズム」探索プロジェクト始動 ―

一般社団法人ユースキャリア教育機構・研究員の井上寛人です。

2025年7月から始まった本連載では、

どうすれば、自己実現を目指す若者の離脱率が低いコミュニティをデザインできるか?
という問いを探究してきました。

私はこの1年以上、ユースキャリアの定例勉強会やイベントに参加させていただきながら、多くの若者たちが挑戦する姿を見てきました。

そのなかで気になったのは、自己実現に向かって踏み出した人であっても、その道のりを走り続けることは決して簡単ではないということです。

実際、最初は意欲的だった人が途中で立ち止まったり、夢や目標から距離を置いたりする場面を何度も目にしてきました。

そこで私たちは、
「若者はどのようなときに夢を諦めたくなるのだろうか?」
という問いに、より正面から向き合うことにしました。

そのために立ち上げたのが、
『若者が夢を諦めるメカニズムの探索的調査と、構造的な解決策の検討プロジェクト』です。

このプロジェクトでは、仮説を立て、まずは小さく試し、得られた学びをもとに仮説を更新していくというアジャイルな進め方を採用しています。

そして最初のステップとして取り組んだのが、「若者が夢を諦める理由」についてのブレインストーミングでした。
今回は、その結果として見えてきた「若者が夢を諦める4つのフェーズ」ついてご紹介します。

若者が夢を諦める理由の仮説生成プロセス

今回、ユースキャリアのメンバーを対象に2回のグループブレインストーミングを実施しました。

1回目は、CS(コミュニティサポート)クラスに所属する3名の大学生・若手社会人に参加していただきました。
CSクラスは、自己実現を目指すリーダーやコミュニティを支えるケアの視点を持つメンバーで構成されています。

2回目は、研修生として積極的に挑戦を続けている、いわゆる「ネクストリーダー」タイプの3名に参加していただきました。そこで出てきたアイデアをもとに、筆者らで親和図法を用いて整理・類型化しました。


その後、参加者と編集長の高瀬さんに確認していただきながら分類を調整しました。
その結果、「若者が夢を諦めたくなる要因」は、大きく4つのフェーズに整理できるのではないかという仮説にたどり着きました。

なお、これらのフェーズは一直線に進むものではありません。
行きつ戻りつしながら何度も経験するものであり、一度乗り越えたら終わりという性質のものではないと考えています。

ではそれぞれのフェーズについて、簡単に見ていきましょう。

フェーズ① 自分がわからない期

最初の壁は、「そもそも何を目指したいのかわからない」という状態です。

私たちは日常的に、

「やりたいことを見つけよう」
「自分らしい生き方をしよう」

というメッセージに触れています。

しかし、そうした言葉に背中を押される一方で、自分自身の価値観や軸がまだ十分に育っていない場合、何を目指せばよいのかわからず戸惑ってしまいます。

  • やりたいことを見つけなければいけない気がする
  • でも何をしたいのかわからない
  • 周囲は夢を持っているように見える

そんな焦りや不安が生まれやすいフェーズです。

一方で、この段階では「とりあえずやってみたい」と思える対象に出会い、根拠のない自信をエネルギーに挑戦できる時期でもあります。

フェーズ② 理想と現実のギャップ期

挑戦を始めると、多くの人が次にぶつかるのが実力の壁です。

最初は大きな理想や期待を持っていたとしても、現実には思うような成果が出ないことがあります。

  • 想像していたほど成長できない
  • 思ったような結果が出ない
  • 周囲の優秀な人と比較してしまう

そうした経験を通して、自分の理想と現実のギャップを痛感するようになります。
夢を持つこと自体は楽しくても、その夢に見合う力を身につける過程には苦しさも伴います。
この段階で自信を失い、挑戦から離れてしまう人も少なくありません。

フェーズ③ 頑張る意味を見失う期

さらに挑戦を続けていると、今度は成果や能力の問題とは別の壁が現れます。

それが「頑張り続ける意味」の壁です。

  • 自分は何のために頑張っているのだろう
  • このまま進んで本当に幸せになれるのだろうか
  • 他の生き方の方が魅力的に見える

そんな問いが生まれてきます。

また、頑張り続けたことによる疲労や心身の不調が重なることもあります。
周囲の同世代や別のコミュニティが輝いて見えたり、もっと楽な道に進みたくなったりすることもあるでしょう。

一方で、このフェーズは単なる停滞ではなく、自分の挑戦の意味を問い直す機会でもあります。

「なぜ自分はこれをやりたいのか」
「その先にどんな社会を実現したいのか」

といった問いを通して、より深い意味づけへと進化していく可能性を持った時期でもあるのです。

フェーズ④ 守るものが増える期

最後に見えてきたのは、「挑戦したい自分」と「守りたいもの」との間で生じる葛藤です。

学生時代には比較的自由に使えていた時間も、年齢を重ねるにつれてさまざまな責任と分け合うことになります。

例えば、

  • 後輩やコミュニティメンバーを支援する時間
  • 仕事やキャリア形成の時間
  • パートナーや家族との時間
  • 健康や生活を維持するための時間

などです。

自己実現に向かう時間を増やせば増やすほど、別の何かを犠牲にしなければならない場面も出てきます。
だからこそ、「自分の夢を追うこと」と「大切なものを守ること」の間で揺れ動くようになります。

これは個人の能力不足の問題というよりも、ライフステージにおける選択そのものに関わる葛藤と言えるかもしれません。

おわりに

今回ご紹介した4つのフェーズは、あくまでユースキャリアのメンバーとの対話から生まれた暫定的な仮説です。

参加者も限られており、私たち自身の経験や視点によるバイアスも含まれています。

だからこそ、今後は追加調査や有識者へのインタビュー、そして読者の皆さんからのフィードバックも取り入れながら、この仮説をさらに磨いていきたいと考えています。

皆さんご自身は、どのフェーズに最も共感したでしょうか?

あるいは、ここには含まれていない「夢を諦めたくなる瞬間」があるかもしれません。

今後の記事では、それぞれのフェーズで何が起きているのか、そしてどうすれば挑戦を続けやすくなるのかを、
理論と実践の両面から考察していきます。

若者が不幸な形で夢を諦めなくて済む社会へ。
むしろウェルビーイングに挑戦を続けられる社会へ。

そのヒントを皆さんと一緒に探していければ嬉しいです。


著者:井上寛人

一般社団法人ユースキャリア教育機構・研究員。チェンジ・リーダーのウェルビーイングを探究する研究者/実務家。明治大学在学中に若者による環境運動「Fridays For Future Tokyo」の立ち上げに関わり、自身や仲間の燃え尽き症候群を目の当たりにしたことをきっかけに、挑戦する人の心が壊れずにすむ社会のあり方を探究してきた。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。現在は武蔵野大学大学院ウェルビーイング研究科に在籍し、社会起業家をはじめとするソーシャルセクターのリーダーが抱える構造的ストレスの緩和と予防をテーマに研究している。