一般社団法人ユースキャリア教育機構・研究員の井上寛人です。
「やりたいことを見つけなきゃ」と思えば思うほど、かえって何もできなくなってしまう。
みなさんも、そんな経験はないでしょうか。
そんな私たちの焦りの背景には、他者比較や、「早く何者かにならなくては」という空気があります。
この記事では、その焦りの正体を整理しながら、自己効力感や協調的幸福感という視点を手がかりに、
幸せに「やりたいこと」を見つけていくヒントを考えます。

やりたいことが見つからなくて焦る。その正体は何なのか?
「何もしていない状態の自分に焦りや恐怖を感じる」
「周りの人が何かを始めているのを見ると、途端に気になってしまう」
こうした感覚を抱えている学生は、少なくないように思います。
将来が漠然と不安。その「不安」の中身をもう少し丁寧に見ていくと、
実はかなりの部分が「他者との比較」から生まれているのかもしれません。
例えば、周りの友達がインターンを始めたり、事業を立ち上げたり、趣味に打ち込んでいたりする。
一方で、自分はまだ何も始められていない気がする。
その瞬間に、急に心がざわつく…
もちろん、その焦りを打破するには、自分も何か始めればいい。
けれど、現実にはそれがそんなに簡単じゃないんですよね。何をやればいいのか分からない。
自分に何が向いているのかもまだぼんやりしている。だからこそ余計に焦る。
さらに、若い世代ほど「仕事やキャリアにおいて、やりたいことを見つけるべきだ」と感じやすい傾向もあるようです。
金間(2025)は、これを「やりたいことを見つけなさい圧」と呼んでいます。
私たちは、ただ将来に迷っているのではなく、「早く何者かにならなくては」という空気の影響で、焦ったり不安になったりしているのかもしれません。
じゃあ、なぜ動けないのか?
では、何かに挑戦したい気持ちはあるのに、なぜ私たちは動けなくなってしまうのでしょうか。
大きく分けると、理由は2つあるように思います。

1つは、「自分の能力ではどうせできない」という思いです。
これは、自己効力感の低さと関係しています。自己効力感については、以前の記事「心を折らずに、自己実現への挑戦を続けるための方法とは?」でも詳しく触れたので、詳細はそちらもお読みいただけると嬉しいです。
自己効力感とは、「自分ならできる」「自分ならきっとうまくいく」と、自分の能力やスキルを信じられている認知状態のことを指します。いわば、根拠のない楽観ではなく、経験や手応えに裏づけられた「根拠のある自信」です。
自己効力感が低いと、人は挑戦の前から「どうせ無理だ」と、一歩を踏み出しにくくなります。
もう1つは、「拒否られるのが怖い」ことです。
浮いてしまったらどうしよう。相手を傷つけてしまったらどうしよう。キモがられたらどうしよう…..
こうした怖さは、単なる気の弱さではなく、周囲との関係を大切にしたい気持ちともつながっています。
動けないのは意志が弱いからだとは限りません。
「できる気がしないこと」と「関係性を壊したくないこと」が、私たちの足を止めているのです。
挑戦を支えるのは、「自己効力感」と「周りとの関係性」
ここで大事になってくるのが、「協調的幸福感」と「自己効力感」という視点です。

協調的幸福感とは、周囲との調和や、安定した人間関係の中で感じられる幸福感のことです。
日本では、幸福は個人の達成だけで完結するというより、周囲との調和や安定した人間関係の中で感じられやすいと言われています。実際、Uchida and Kitayama(2009)は、アメリカでは幸福が個人的達成と結びついて語られやすい一方で、日本では社会的調和とより強く結びついて捉えられることを示しています。
さらに日本では、幸福は純粋にポジティブな状態としてだけでなく、人間関係への配慮や、その状態がずっと続くとは限らないという感覚も含んだ、複合的なものとして理解されやすいことが示唆されています。
たとえば、
「周りより突出しすぎないこと」
「人とつながっていること」
「安心して関係性の中にいられること」
こうしたことが、日本的な文脈では幸福感に大きく関わっているのです。
なので、あなたがやりたいことを見つけて実行していきたいなら、「同じように何かに挑戦している人が周囲にいる環境に身を置くこと」には大きな意味があります。
そういう場では、自分だけが浮きにくい。目的を共有しながら、励まし合ったり、助け合ったりしやすい。
挑戦しながらも、人とのつながりや安心感を保つことができます。
その環境の一つとして、ユースキャリアはぴったりです。学校ではなかなか出しにくい、自分の問題意識や強い衝動も、同じように考えている仲間が集まるこの環境でなら、発揮しやすくなるはずです。
さらに、そうした環境では、自己効力感を育てる小さな成功体験も積みやすくなります。
安心して話せる。失敗しても全否定されない。ちょっとした前進を周りが見つけてくれる。
そういう経験の積み重ねが、「自分ならできる」という感覚を育てていきます。
「自分にはどうせできない」と感じるのは、そんなに不自然なことではありません。
だって、まだやったことがないから。
最初から自己効力感が高い人なんて、むしろ少ないはずです。
もし、自己評価はそこそこ高いのに、自信だけが持てないのだとしたら、それは自分という存在の価値が低いのではなく、特定の能力やスキルに対する自己効力感がまだ育っていないだけかもしれません。
だとしたら必要なのは、まずはやってみて、できることを少しずつ増やしていくことなのだと思います。
新しい環境に入り、身につけたい能力を実際に使いながら、その能力に対する自己効力感が育つまで続けてみる。
周囲とつながりながら挑戦できる環境は、幸福感の面でも、成長の面でも、あなたを支えてくれます。
では、「やりたいこと」はどう見つければいいのか
ここで本題に入ります。
やりたいことは、どうすれば見つかるのでしょうか。
そのヒントになるのが、誰に見せるでもないのに、気づいたらやっているような「偏愛」的な行動です。
あなたが好きすぎること、すなわち偏愛はなんですか?
現代は、「みんなが知っている有名な大学・会社」や「今流行りのテクノロジー」が目立ちやすい世の中…。
でも実際には、自分のやりたいことの手がかりって、もっと地味で、もっと細かくて、もっと個人的なところにあったりします。
大事なのは、この偏愛を大雑把にまとめず、細かく言語化していくことです。
例えば、「Podcastが好き」「ボイグルが好き」「スキンケアが好き」「筋トレが好き」だけだと、まだちょっと粗いかも。
だれのPodcastのどのような語りが好きなのか。
どのボイグルの、誰の、どこが好きなのか。
どこのスキンケア用品の、どんな要素に夢中になるのか。
筋トレのどんな瞬間が、どう面白いのか。
そこまで向き合っていくと、自分がどんなものに反応しているのかが、具体的に言語化できます。

ただし、注意点もあります。
1つは、SNS時代に生きる私たちは、フィードに流れてくる派手な広告や、インフルエンサーたちの分かりやすいサクセスストーリーに引っ張られやすいことです。そのせいで、自分の中に自然に湧いてくる小さな偏愛に気づきにくくなっているかもしれません。
もう1つは、偏愛をきれいな言葉でまとめすぎないことです。
大切なのは、AIを使って文章を洗練させることよりも、多少荒くても自分の感覚に近い言葉を探すことです。
こうした具体的な偏愛を、ほどよく抽象化していくと、自分の「やりたいこと」が見えてきます。
ちょっと僕を例に考えてみましょうか。まずは具体的な偏愛からです。
NewsPicksの『Weekly Ochiai』という対談番組が好きでした。具体的にどこが好きだったんだろう?
番組の中で、落合陽一さんと、それに匹敵する別分野の専門家が、高度で知的なやり取りをする。よく分からないけど、めちゃくちゃ対話が白熱して、意見に違いがあっても、同じくらい高い視座や深い専門性で語れる数少ない仲間として、まるでグータッチしたり、ハグし合ったりしているように感じる。僕は、ああいう感じが好きだったんだと思います。
『Weekly Ochiai』に限らず、別々の分野のプロフェッショナル同士が対等な関係で、本気でやり合って、気づいたらどこか遠くまで行っちゃう。そんなコンテンツを見ると、めっちゃワクワクします。
次に、この偏愛を抽象化して、やりたいことを探ってみます。
自分の興味のある分野のプロフェッショナルになることで、自分とは別分野のフロントランナーと対等な関係で仲良くなりたい。そして、自分だけではアクセスできないような、人と話したり、場所に行ったり、時間を過ごしたりしたい。そのような、自分が努力しなかった世界線ではありえなかったであろう体験をしたい。
『Weekly Ochiai』から影響を受けてやりたくなったのか、もともと潜在的にやりたいと思っていたことが、番組をきっかけに顕在化したのかは分かりません。けれど、僕の場合は、偏愛を一般化したら、このようなやりたいことが浮かび上がってきました。
ただし、これも頭の中だけで完結する話ではありません。
結局のところ私たちは、いろいろやってみながら、「これかも」「いや、こっちかな」と試行錯誤するしかない。
自分のやりたいことは、動きながら洗練させていくものなのだと思います。
「やりたいこと」がなくても、まず動いていい

とはいえ、最初から明確な「やりたいこと」がある人は、そんなに多くありません。
だからこそ、まずは「できること」から始めてみるのは、すごく有効な方法です。
ここでいう「できること」とは、ものすごく好きというわけではないけれど、なぜか自然とできてしまうこと。本人にとっては当たり前すぎて見過ごしがちですが、そこには才能や特性が隠れていることがあります。
僕の場合でいうと、「人と人をつなげる場づくり」や「イベント集客」は、なぜか自然とできました。来てくださった方々に心から感謝です。
自分が開いたイベントで知り合った方とのご縁をきっかけに、バーで仕事をするようになりました。そのバーにいたことが、ある人との出会いにつながり、さらに別の大切な出会いにつながり、結果的に、やりたいことを仕事にすることができていきました。そして今では、その経験が自分の研究にも直結しています。
自分のことを振り返ってみると、最初から明確なやりたいことがあったわけではありませんでした。
ただ、そのときどきで選り好みしすぎず、できることを続けてきました。
そして、やりたいことを見つけたとき、これまで積み上げてきたできることが、やりたいことを実現させる資産となりました。
ユースキャリアでは、経営の基礎知識を軸に、できることを増やしていく学びと実践を体験できます。ここでできることを少しずつ増やしていくことが、将来のやりたいことにつながっていく可能性は十分にあります。だから、まだ「やりたいこと」がはっきりしていなくても、大丈夫です。
まずは、できることから始めてみること。安心して挑戦できる環境に入ってみること。そこからでいいのだと思います。
著者:井上寛人
一般社団法人ユースキャリア教育機構・研究員。チェンジ・リーダーのウェルビーイングを探究する研究者/実務家。明治大学在学中に若者による環境運動「Fridays For Future Tokyo」の立ち上げに関わり、自身や仲間の燃え尽き症候群を目の当たりにしたことをきっかけに、挑戦する人の心が壊れずにすむ社会のあり方を探究してきた。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。現在は武蔵野大学大学院ウェルビーイング研究科に在籍し、社会起業家をはじめとするソーシャルセクターのリーダーが抱える構造的ストレスの緩和と予防をテーマに研究している。
参考文献
- 金間 大介(2025)『無敵化する若者たち』東洋経済新報社
- 谷川 嘉浩(2024)『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』筑摩書房
- Bandura, A.(1997)Self-efficacy: The exercise of control. W. H. Freeman.
- Uchida, Y., & Kitayama, S.(2009)Happiness and unhappiness in East and West: Themes and variations. Emotion, 9(4), 441-456.


