一般社団法人ユースキャリア教育機構・研究員の井上寛人です。
2025年7月から始まった本連載では、
「どうすれば、自己実現を目指す若者の離脱率が低いコミュニティをデザインできるか?」
という問いを探究してきました。
その問いにより深く向き合うため、先日の記事では、「若者が夢を諦めるメカニズムの探索的調査と、構造的な解決策の検討プロジェクト」を立ち上げました。
ブレインストーミングと類型化を行う中で見えてきたのは、「若者が夢を諦める4つのフェーズ」です。
前回記事はこちら:
https://oyce.co.jp/columns/knowhow/how-to-keep-chasing-your-dreams/
- フェーズ① 自分がわからない期
- フェーズ② 理想と現実のギャップ期
- フェーズ③ 頑張る意味を見失う期
- フェーズ④ 守るものが増える期
今回は、その中の「フェーズ③:頑張る意味を見失う期」について考えていきます。

少し重たく聞こえる名前ですが、この時期は、これまで本気で進んできたからこそ訪れる節目でもあります。
頑張り方を見直し、もっと自分らしく、長く続けられる挑戦の形へアップデートする。
そんな「夢の第2章」を始める時期として、一緒に考えていきたいと思います!
理想に近づいた先で、「何のため?」が生まれる
最初に、これまでのフェーズを簡単に振り返ります。
フェーズ①の「自分がわからない期」では、
「自分は何をしたいのだろう」
「何なら夢中になれるのだろう」
と、自分の進む方向を探します。
そこで、「本当にこれでよいのか」は分からなくても、
「一旦、これに取り組んでみよう」
と進む方向を仮置きし、活動を始めます。
すると、次に訪れるのがフェーズ②の「理想と現実のギャップ期」です。
「自分なら、もっとできると思っていた」
「頑張っているのに、成果が出ない」
「周りと比べて、自分だけが遅れている気がする」
そんな悔しさを抱えながらも、試行錯誤を重ね、少しずつ経験や実力を身につけていく。
すると、理想と現実のギャップは次第に埋まっていきます。
ところが、その先まで進んだからこそ、別の問いが現れます。
「自分は、何のためにこんなに頑張っているんだろう……」
フェーズ②で向き合うのが、理想に届くための自分の力だとすれば、フェーズ③で向き合うのは、その理想を追い続ける意味そのものです。
実は、ウェルビーイング研究には「人生満足度のU字カーブ」と呼ばれる知見があります。
世界各国の調査では、人生満足度は年齢とともに一度低下し、その後再び高まる傾向が繰り返し報告されています。
その理由についてはさまざまな説明が提案されています。その一つとして、人生の中で価値観や生きる意味を問い直すプロセスが関係しているのではないか、と考える研究者もいます。
私は、若者への探索的調査を進める中で、この現象は年齢だけでなく、「夢を追い続けるプロセス」の中にも現れるのではないかと考えるようになりました。
ある程度実力がつき、理想に近づいたからこそ、「次は何を目指すのか」「何のために挑戦を続けるのか」という新しい問いが生まれる。これは、挑戦を諦める前触れではなく、挑戦の意味を問い直し、更新していくプロセスになります。
そして、その先に始まるのが、「夢の第2章」なのかもしれません。

「やりたい」が、いつの間にか義務になる
活動を始めた頃は、純粋な「やりたい」という気持ちから始まったはずです。
「この問題を解決したい」
「こんなものをつくりたい」
「誰かの役に立ちたい」
けれど、活動を続けていると、その「やりたい」が、いつの間にか「やらなければならない」に変わることがあります。
仲間が増え、任される役割が大きくなり、周囲からの期待も高まっていく。
実力がつけば、できることも増えます。
そして、仕事ができる人のもとには、多くの依頼が集まってきます!
「これもお願いしたい」
「あなたならできると思う」
信頼されることは、もちろんうれしいことです。
しかし、期待に応えようとするうちに予定が埋まり、自分が動いたほうが早いからと、仕事を抱え込んでしまうことってありませんか?
その結果、自分で選んだ活動が、終わりのないタスク処理のように感じられてくる。
ここで参考になるのが、島津(2025)が仕事要求度・仕事資源モデルについて整理した議論です。
仕事を前向きに続けるための資源には、周囲の支援やフィードバックだけでなく、自分で仕事の進め方を決められる「自律性」も含まれます。
反対に考えると、もともとは自分で選んだ活動でも、自分で選んでいる感覚が薄れると、「やりたい」という気持ちを感じにくくなるということです。
また、金子(2025)は、限られた時間や能力に対して、求められる仕事や責任が多すぎる「役割過負荷」を、働く人のストレスを捉える重要な要素として扱っています。
社会起業家を研究したVandor & Meyer(2025)も、小さく新しい組織の創業者は、サービス開発、人材採用、資金調達、組織づくりなど、多様な仕事を同時に担いやすいと指摘しています。
「自分がやらなければ、この活動は止まってしまう」
そう思うほど、仕事を手放すことは難しくなります。
そして、成長には「人に任せる力を育てること」も含まれるのだと思います。
誰かに教える。
あえて任せてみる。
仕組み化する。
それも、次のフェーズへ進むために必要な力なのだと思います!

楽しそうな友達がまぶしく見える日があってもいい
活動を続け、その領域を深く知るほど、最初には見えなかった現実も見えてきます。
簡単には変わらない仕組み。理想だけでは乗り越えられないお金や組織の問題。同じ志を持つ人同士でも起こる意見の違い。
「思っていた世界と違う」
「本当に、この活動には意味があるのだろうか」
そう感じることがあるかもしれません。
それは、その領域への理解が深まり、夢をより現実的に捉えられるようになったサインとも考えられます。
最初の素朴な希望を、現実を知ったうえでの「それでも実現したいこと」へ更新できれば、夢は以前より具体的で、しなやかなものになります。
また、夢を追うには、時間も体力も必要です。
自分がパソコンに向かっている間に、友人は飲みに行っている。
休日にイベントの準備をしている間に、誰かは旅行へ出かけている。
頑張っても成果が見えないときほど、別の生き方が魅力的に見えます。
「もっと普通に学生生活を楽しんでもよかったのではないか」
「ここまで何かを背負わなくても、幸せに生きられるのではないか」
そう思うのも、自然なことだと思います。
休みたい。遊びたい。誰かとゆっくり過ごしたい。
その気持ちの奥には、これまで後回しにしてきた大切な願いがあるのかもしれません。
夢に向かう時間と、友達と笑う時間。活動に集中する日と、何もしない休日。
その両方を、時期に合わせて行き来してもよいのだと思います。
寄り道に見える余白の時間が、長く挑戦を続けるエネルギーになることもあります。

「頑張れる」と「夢中で続けられる」は、だいぶ違う
頑張る意味を見失う背景には、シンプルに「ちょっと頑張りすぎている」という場合もあります。
「若いのだから、多少無理をしても大丈夫」
「ここを乗り越えれば、成長できる」
「自分が休んだら、仲間に迷惑をかける」
そう考え、睡眠や休息を削り過ぎてしまう。
ここで気をつけたいのは、熱心に活動している状態と、仕事から離れられなくなっている状態は、外から見ると似ていることです。
Shimazu & Schaufeli(2009)は、日本人労働者776名を対象に、ワーク・エンゲイジメントとワーカホリズムの違いを検討しました。
ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に活力や熱意を持って取り組んでいる状態です。
一方、ワーカホリズムは、過度に働くだけでなく、仕事をしていないときも頭から離れず、強迫的に働いてしまう状態を指します。
調査の結果、ワーク・エンゲイジメントは心身の不調の少なさや、仕事・家庭生活への満足と関連していました。
それに対し、ワーカホリズムは心身の不調と正の関連を示し、仕事・家庭生活への満足とは負の関連を示しました。

つまり、たくさん活動しているという外見だけでは、健全に夢中になっているのか、自分をすり減らしながら働いているのかは分かりにくいということです。
主催イベントやビジコン、プロジェクトの締切前など、短い期間に集中して走る経験は、大きな達成感を与えてくれます。
ただ、それが毎日続くと、心身の回復が追いつかなくなります。
眠っても疲れが取れない。以前は楽しかった活動に、気持ちが動かない。連絡を見るだけで気が重くなる。
これは自戒を込めてなのですが、そんなときには、気合いを足すより、不要な予定を引いてみることが必要かもしれません。
小さな回復の時間をつくるだけで、心の余裕や創造性が戻ってくることもあります。
夢も、大切な人との時間も、どうバランスさせる?
もう一つ、活動を続ける中で避けて通りにくいのが、プライベートとの両立です。
夢や仕事に集中すればするほど、恋人や家族、友人と過ごす時間は少なくなります。
活動を優先すると、大切な人との時間が気にかかる。大切な人との時間を優先すると、仲間や活動のことが気にかかる。
どちらも大切だからこそ、簡単には選べません。
Vandor & Meyer(2025)の調査でも、社会起業家のストレス要因として、起業活動と家族、仕事、学業など、ほかの責任との両立の難しさが挙げられています。
両立とは、毎日の状況に合わせて、大切なものへの力の配分を調整していくことなのだと思います。
忙しい時期をあらかじめ伝える。大切な人との予定を先に入れる。
活動の仲間にも、私生活を大切にする文化をつくる。時期によって力の配分を変える。
話し合いながらバランスを探すことも、自分らしい挑戦を続けるための大切な実践です。
そうやって悩みながら調整していくことも、自己実現の一部なのだと思います。
夢の意味を、今の自分に合わせて更新する

「頑張る意味を見失う期」は、一つの出来事によって突然訪れるとは限りません。
ここまで述べてきたような要因が重なった結果、
「自分は、何のために頑張っているんだろう」
という問いが生まれるのではないでしょうか。
その問いは、ここまで本気で活動し、自分も環境も変化してきたからこそ生まれるものだと思います。
活動を始めた頃と今とでは、きっと知識も、能力も、立場も、人間関係も変わっています。
「何のため?」という問いを入り口に、成長した今の自分に合う目的地と進み方を、改めて定義していくことができます。
では、頑張る意味が分からなくなったとき、どうすればよいのでしょうか。
「今まで通り頑張り続ける」
「すべてを手放す」
その二つの間には、たくさんの選択肢があります。
担う役割を減らす。活動の速度を落とす。一度休む。誰かに仕事を任せる。自分が本当に担いたい部分を選び直す。
夢を大切にしながら、その関わり方を変えることもできます。
Muller(2026)は、ドイツ、香港、チェコの社会的企業のリーダー30名へのインタビューから、仕事と生活の不均衡、過剰な献身、社会的使命がもたらす感情的負担、創業者への依存などを、繰り返し現れるストレス要因として整理しています。
一方で、この研究では、バーンアウトが組織を見直す転機にもなっていました。
一部のリーダーは、回復の過程で、リーダーシップを分散する、仕事と私生活の境界を引く、収入源を多様化するといった組織の再設計を行っていました。
休むことや役割を減らすことも、活動を長く続けるための大切な選択になります。
自分一人の無理によって成り立っていた活動を、仲間と支え合い、長く続けられる形へ変える機会にもなり得ます。
「何のため?」から、夢の第2章が始まる

活動を始めた頃の意味は、シンプルだったかもしれません。
「楽しそうだから」
「社会を変えたいから」
「自分の力を試したいから」
けれど、現実を知り、責任を持ち、さまざまな経験をした後では、
同じ言葉だけで走り続けることが合わなくなる場合があります。
最初の思いを土台にしながら、今の自分に合う意味へ更新する時期が来たのだと思います。
勢いで走ってきた「夢の第1章」から、自分の生活や幸せも大切にしながら進む「夢の第2章」へ。
そこで大切にしたいのは、今の自分にとっての自己実現の意味を、もう一度考えてみることです。
「今の自分は、何を大切にしたいのか」
「どのような状態で歩み続けたいのか」
夢は、仲間と歩いたり、ときには休んだり、形を変えたりしながら追い続けることもできます。
理想も現実も含めて、自分なりの夢の追い方を探究する。
そんな新しいフェーズを、私自身も皆さんと一緒に楽しんでいきたいと思います!
著者:井上寛人

一般社団法人ユースキャリア教育機構・研究員。ソーシャルアントレプレナーのウェルビーイングを探究する研究者/実務家。明治大学在学中に若者による環境運動「Fridays For Future Tokyo」の立ち上げに関わり、自身や仲間の燃え尽き症候群を目の当たりにしたことをきっかけに、挑戦する人の心が壊れずにすむ社会のあり方を探究してきた。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。現在は武蔵野大学大学院ウェルビーイング研究科に在籍し、社会起業家をはじめとするソーシャルセクターのリーダーが抱える構造的ストレスの緩和と予防をテーマに研究している。
参考文献
[1] 島津明人(2025)「ワーク・エンゲイジメント:研究と実践における最近10年の動向」
[2] 金子信一(2025)「簡易役割ストレッサー尺度(Brief Inventory for Role Stressor:BIRS)の作成と信頼性・妥当性の検討」
[3] Shimazu, A., & Schaufeli, W. B.(2009)Is Workaholism Good or Bad for Employee Well-being? The Distinctiveness of Workaholism and Work Engagement among Japanese Employees.
[4] Vandor, P., & Meyer, M.(2025)Impactful Ventures, Burned-Out Founders? Insights from Two Studies of Social Entrepreneurs.
[5] Muller, M.(2026)The Cost of Social Impact: From Burnout to Resilience among Social Entrepreneurs.

