全スポーツのアスリートへ向けた、セカンドキャリアへの選択肢を創る。古田寛幸インタビュー。

<プロフィール>
8歳離れた兄の影響でボールを蹴り始め、地元の少年団に入る。中学、高校は北海道コンサドーレ札幌のアカデミーに所属し、世代別日本代表に選ばれる。当時初の飛び級で、高校3年生でチームへ昇格。チームでは副キャプテンを任され、J1でもプレーした。「海外でプレーする」という夢を叶えるため、海外トライアウトに3回チャレンジするも、夢叶わず。その後数々のチームを渡り歩き、J1、J2、J3全てのカテゴリーでプレーした。
現在は淡路島でサッカークラブを創り、オンラインサッカースクールやアスリートのキャリア教育コミュニティを運営している。

ーー古田さんは2019年にブラウブリッツ秋田で引退をされましたが、引退を決めた理由はなんでしょうか?

引退を決めた理由は主に2つあります。
 
 1つ目はサッカー以外のビジネスのことなどが、自分の心を占める割合が大きくなってきたからです。プロ選手がキャリアを考えるきっかけは主に、契約満了の提示を受けた時、カテゴリーがダウンした時、怪我で長期離脱した時、子供が産まれた時、4つの場面があると思います。僕の場合はこのような節目節目でキャリアについて考えるキッカケがあり、プロサッカー選手引退後のことについて考え始めました。僕の引退は2019年ですが、その年の始めに引退を決めてシーズンを迎えました。その1年間は、サッカー以外のところで経営者の方とコンタクトを取ったり、自分のキャリアについて行動を始めました。
 2つ目の理由は、自分の実力にも限界を感じたということです。
キャリアの最後はJ3でプレイしましたが、ここからJ2.J1と自分がステップアップしていける絵が浮かばなかったのと、これ以上家族をサッカーで幸せにするのは無理だなと思ったからです。

ーープロサッカー人生を振り返って、今に活きたことなどありますか?

 私は、Jリーグの中で、J1、J2、J3全てを体験している点は勉強になりました。
J1の選手は基本的に、サッカーのこと以外は全てのことを周りの人がやってくれます。例えば練習で使ったウェアなども、専用のかごに入れとけば次の日には、きれいな練習着が自分のロッカーに置いてあります。しかしJ3の選手ですと、練習着などは自分で洗濯しなくてはいけません。時には練習着を洗うために家に帰ったりすることもありました。でもこういった行動は一般社会では当たり前なことです。J1の経験しかなかったら、人にやってもらうことが当たり前になっていて引退後苦労したかもしれません。

ーーアスリートの引退後のキャリアについて思うことはありますか?
多くのサッカー選手は引退後、どんなキャリアを歩むのでしょうか?

 僕は引退後のサッカー選手のキャリアの問題点として、サッカー界という凄く狭いコミュニティで人が循環していることが問題であると思っています。勿論引退後に、サッカー業界に還元するために直接サッカーに関わるお仕事をする選択肢もありますが、他の分野に興味を持つ人も多いと思います。しかしそれらの仕事の選択肢が、実際のサッカー選手の視点から見えていないことが多いのが現状です。その結果元プロサッカー選手という肩書きや価値を正しく理解して、キャリアに使うことはできない人が多いと思います。僕自身も引退直後にまさか自分が、一般社団法人の理事になっているなんて想像もしていませんでした。
僕もそういったサッカー以外のキャリアに関心がある人に対しても、様々なセカンドキャリアの選択肢を創っていく活動をしたいと思っています。

ーー現役中にセカンドキャリアを考える時間はあるのでしょうか?

 引退後に関して殆どの選手は考えていると思います。でもなんかこう臭いものに蓋するイメージで、見て見ぬふりするとまでは言いませんが、ホントに真剣に考えているかと言われると分かりません。
 引退後の人生があることは分かっているけど、そこに意識がいかないイメージですね。選手は24時間という時間を、週末の試合のパフォーマンスを上げるために使いたいと思います。セカンドキャリアのことを考えすぎるとサッカーに支障がでますし、サッカー以外のことを考えることは想像以上にエネルギーを使うんですよ 。プロサッカー選手はサッカーという分野で尖れたからプロになれた人なので、難しい問題なんですよね。

ーーサッカー選手引退後に苦労したことはありますか?

大きく分けると2つありますね。

1つ目はライフスタイルのギャップです。
サッカー選手なら、拘束時間サラリーマンでいう勤務時間でいったら、午前中の9時〜12時だけなんですよね。午後は筋トレ、身体のケア、自主練などありますが基本的には自分で時間の使い方を決められます。朝から夜まで働くことに慣れてない人が殆どです。
今まで勿論、お金を貰ってサッカーをするという意味ではお仕事ではあるのですが、一般的な企業のお仕事とはまるで違い、別世界ぐらい違います。イメージでいったら、新1年生の社会人です。高卒でプロになった選手などはアルバイトは愚かでパソコンを使った作業もしたこともない人もいます。

2つ目は金銭的なギャップです。
J3の選手のほうがキャリアの転換がスムーズに出来ている印象はあります。J3では選手として働きながら、サッカーをしている選手も見てきたので、そこは僕の選手時代の大きな資産であると思います。僕は良くも悪くも年俸が下がりながら引退したので、お金の勉強などもしながら生活してました。それでも生活水準を下げることに摩擦がありましたよ。
サッカー選手引退後のキャリアとして、選手時代より多くの年収を手に入れる人は殆どいません。そんな中一度上げた生活レベルを落として生活することは並大抵なことじゃありません。年俸にして何千万と貰っている選手でさえ、引退すると数百万になります。
どんな人間でも、銀行残高の数字が減っていくのはストレスです。
ある程度貯金がある選手も例外ではありません。考えてみてください。自分の家族や子供に「収入が下がるから来月から、月15万の家賃から月10万の家賃の家に引っ越したい」何て言葉は言えるでしょうか。やっぱり家族の前でも見栄も貼りたくもなりますし、生活レベルを落とすことは想像以上に大変です。

ーー古田さんは引退した翌年オンラインサッカースクールを立ち上げました。
具体的にはどんなことをおしえているのでしょうか?

 基本的にはマンツーマンで指導するスタイルです。「グランドで学べないことを伝えたい」というコンセプトのもとで子ども達を中心に、実際のフィールドでは教われないことを教えています。サッカーだけしかできない人になってほしくないという思いがあります。それは僕自身がそうなりたくないという思いは、小さい頃からありました。サッカー人生は、絶対いつか終わりが来ることも分かってるし、サッカーだけしか知らない人間だったら、人生勿体ないと思います。もちろん子どもは、ドリブルやシュートといった、技術のことについての指導も求めてるのですけど、本質的に伝えたいことはそこじゃなくて、マインド的な部分とか、物事の考え方みたいなのを伝えたくて やっています。いかにサッカーの技術と共に社会にも活きる考え方などを教えられるか意識してます。オンラインスクールでは普段の練習では、不足しがちな考え方について伝えるようにしてます。僕自身も幼少期のコーチなどからは人としての考え方など、ある意味では人格形成に大きな影響を受けたと思っていますし、1人1人にしっかりと向き合うことが必要です。最近は生徒数が増えると手が回らなくなってきたので、今は現役の選手などを講師としてお誘いし活動の幅を広げています。

ーー元プロ選手として、様々なキャリア相談などをする場面もあると思います。
人の夢を応援する立場としてなにか意識していることはありますか?

キャリア相談をされた際は出来るだけ現実と理想のバランスを大切にしています。基本的にはなんでも挑戦をさせて、成功も失敗も自分で考えて行動するよう促すことを意識しています。その人にとって致命傷となり得る挑戦ではなく、しっかり根拠があり、やれることを全てやった上で挑戦することが大切です。

ーープロサッカー選手になるという夢を叶えた立場から、今夢ややりたいことを追っている人へ向けて、なにかアドバイスなどありましたら教えて下さい。

 大人になって現実感ありつつもやっぱり自分の理想を語り合える仲間とか環境っていうのは絶対必要だと思います。夢や目標って語らないと叶わないんですよ。心の中で思ってるだけでは、絶対上手くいかなくて、いかにそれを口にしてたかが重要だと思います。やっぱり思いを口にすると、自然とその情報が入ってきます。

ーー今後の活動を通してどんな境遇の人の悩みを解決したいですか?

 やっぱり一番はアスリートですかね。自分がアスリートだったからこそ、アスリートの人生の道筋や気持も分かるからこそ、自分と同じような境遇を体感してる人に一番価値を与えたいですかね。別に年齢は関係ないですね。そこに一番パッションがあります。

ーー終わりに
今回はプロスポーツ選手のキャリアの話を中心にお話を伺いました。この記事では紹介しきれない部分が多分にありますが、古田さんのお話を聞いて感じたことは、現実と夢のバランスが素晴らしい人だということです。また話から自分の幸福や自分なりの価値観を真剣に考えていることが伝わってきました。「セカンドキャリア問題」という言葉自体を無くしたいと話してくれた古田さんが、多くのアスリートの人生を変えていくことは間違いないと思います。

(インタビュー:粂川達)