2人の先輩社会人に聞く!夢を追いながら現実も捨てない、「大人の挑戦」のコツとは?

一般社団法人ユースキャリア教育機構・研究員の井上寛人です。

2025年7月から始まった本連載では、

「どうすれば、自己実現を目指す若者の離脱率が低いコミュニティをデザインできるか?」

という問いを探究してきました。

そのなかで見えてきたのが、「若者が夢を諦めたくなる4つのフェーズ」です。

  • フェーズ① 自分がわからない期
  • フェーズ② 理想と現実のギャップ期
  • フェーズ③ 頑張る意味を見失う期
  • フェーズ④ 守るものが増える期

最終回となる今回は、「フェーズ④:守るものが増える期」について考えます。

学生時代には、比較的自由に使えていた時間も、社会人になると、仕事や生活、将来のキャリアなどと分け合うことになります。

会社員として成果を出したい。自分の夢にも挑戦したい。コミュニティの仲間や後輩も支えたい。家族や友人との時間も大切にしたい。

どれも大事だからこそ、すべてに十分な時間を使うことはできません。

では私たちは、「夢を追うこと」と、生活など「大切なものを守ること」をどのように両立していけばよいのでしょうか。

そこで今回は、学生時代からユースキャリアに関わり、現在は社会人として働きながら活動を続ける、林恭央さんと伊藤百香さんにインタビュー。

夢を取るか現実を取るか? その狭間で、幸せに挑戦を続けるためのヒントを伺いました。


今回お話を伺ったお二方のプロフィール

林 恭央さん

IT企業 ソフトウェアエンジニア
一般社団法人ユースキャリア教育機構 キャリア開発室

愛知県出身。大学卒業後、複数のIT企業でソフトウェアエンジニアとして、サービスの立ち上げや検証に携わる。エンジニアとしてキャリアを築く傍ら、ユースキャリア教育機構でも設立初期からキャリア事業に積極的に関わっている。

伊藤 百香 さん

株式会社TrickStar 代表取締役
一般社団法人ユースキャリア教育機構 理事
コミュニティTricky 代表

千葉県出身。大学4年時よりKANGOL BEAUTYの立ち上げに参画し、新卒入社。その後、株式会社TrickStarを創業。商品・事業開発を中心に、企業やブランドとのさまざまなプロジェクトを手がける。

現在はユースキャリア教育機構の理事として若者のキャリア支援に携わるほか、コミュニティ「Tricky」を立ち上げ、若者とともに新たな事業やプロジェクトを生み出している。

会社員と自己実現は、本当に対立するものなのか

林恭央さんは、IT企業でソフトウェアエンジニアとして働いています。グローバル展開を目指すプロダクトの開発に携わる一方、ユースキャリアではキャリア開発室やシェアハウスの運営、若者への伴走支援などに関わっています。

社会人として働きながら、ユースキャリアとの関係を10年以上続けてきた林さん。
会社員としての仕事と自己実現の間に、葛藤はなかったのでしょうか?

尋ねてみると、意外な答えが返ってきました。

林さん:「僕には明確な人生設計がなく、その場その場でアドリブのように進路を選んできたんです。

また、『社会に向けて説明しやすい自己実現』と、『自分にとって私的に大切なもの』が、必ずしも一致しなくてもよいのではないかと考えています。」

林さん:「僕は幼い頃から、両親だけでなく、祖父母や叔父、叔母など、多くの親族に関わってもらいながら育ちました。その経験から、『誰かの助けによって今の自分がある』という感覚が育っていったんです。

そうした自分の経験を振り返ると、『みんなが楽しく、仲良くいられる共同体を、どう持続させていくか』ということが、僕にとって大切なテーマなのかもしれないと、最近思っています。」

自己実現というと、「社会を変える」「夢を仕事にする」といった、外から見えやすい目標を思い浮かべることが多いですよね。

そのため、現在の仕事と夢が直接つながっていないと、「会社員を続けるか、夢を選ぶか」という二者択一に感じられることもあります。

しかし、林さんのお話から見えてきたのは、自分にとっての幸せと、社会に対して実現したいことは、必ずしも一つに重なっていなくてよいということでした。

会社員として働きながら、別の場所で仲間を支える。そんな緩やかなあり方も、幸せな自己実現の一つなのかもしれません。

多様な大人との出会いが、「唯一の正解」を弱めてくれた

林さんのしなやかな考え方は、多様な大人に囲まれて育った経験とも関係していました。

林さん:「自分の周りには、さまざまな職業や生き方を選んだ大人がいました。ある大人が一つの夢を『いいね』と評価しても、別の大人は『ほかにもいろんな道があるんじゃない』と言う。大人たちの評価が、一つに定まらなかったんですよね。

そういう環境で育ったからこそ、『これこそが素晴らしい生き方だ』という一つの価値観に縛られず、『全員が納得しなくても別にいい』と思えるようになったのかもしれません。」

これは、コミュニティを考えるうえでも重要な示唆です。

同じ目標や価値観を持った仲間が集まることには、大きな力があります。一方で、一つのコミュニティの価値観だけが自分の世界のすべてになると、その場で評価される生き方から外れることが怖くなる場合もあります。

学校、サークル、学外のコミュニティ、家族、恋人、会社、地元の友人。

異なる考え方を持つ複数の人や集団とつながっていることは、世界を見る視点を増やしてくれるだけでなく、「こう生きなければならない」という思い込みから自由にしてくれるのだと思います。

「全部はできない」と認め、仕事に8〜9割を注いだ

伊藤さんは、株式会社Trickstarを経営しながら、ユースキャリアの理事を務めています。

2026年7月には、学生だけでなくOB・OGも参加できるプロジェクトコミュニティ「Tricky」を立ち上げました。

現在は、自ら仕事をつくり、その機会を仲間や後輩に還元している伊藤さん。しかし、会社員になった当初から、仕事とコミュニティ活動を両立できていたわけではなかったようです。

新卒1年目に直面したのが、「自分の実力をつけること」と「コミュニティで後輩を支えること」を、同時に追い求める難しさでした。

伊藤さん:「後輩を育てることと、自分の自己実現を叶えることを、最初のフェーズでは両立できなかったんですよね。

自分自身がまだ十分な実績や能力を持っていないなかで、後輩に何かを教えることへの迷いもありました。

だから、両方を50:50でやろうとはせずに、最初の2年間は仕事に8〜9割くらい振り切りました。まずは自分自身が、事業を立ち上げたり、成長させたりできる力をつけることに集中しようと思ったんです。

その間、コミュニティの全員と密に関わることはできなかったので、深く関わる後輩はある程度絞っていました。

でも、コミュニティや人との縁を完全に切ることはしませんでした。縁は切らない。薄く、浅くても長く続くような関係性を、会社員時代はめちゃくちゃつくっていました。」

すべてを均等に続けることはできない。だから、今の自分が集中するものを決める。
一方で、今は深く関われない人とも、細く長くつながっておく。

これが、伊藤さんの選んだ「両立」の形でした。

自分の成長が、後輩の機会に変わっていく

仕事に集中した期間を経て、伊藤さんは、自ら案件を獲得し、事業をつくる力を身につけていきました。

現在は、獲得した仕事を一人で抱え込まず、自分より得意な人に相談したり、仲間や後輩に役割を渡したりしています。

伊藤さん:「今は、自分が外に出ていろんな人と出会って、仕事や案件を取ってくる。それを、自分より得意な人にお願いしたり、仲間や後輩に渡したりできるようになりました。

昔は、自分が成長するために使う時間と、後輩を支えるために使う時間が分かれていて、両方をやるのは難しいと思っていたんです。

でも今は、自分が動けば動くほど仕事や機会が増えて、それを周りに渡すことで、後輩たちも経験を積んで成長していく。そういう循環がつくれるようになってきました。

だから、自分の自己実現と後輩を支えることが、前ほど別々のものではなくなってきた感覚があります。」

この変化は、すべてを最初から同時に実現しようとしなかったからこそ生まれたものかもしれません。

自分のために力をつける時間は、一見すると、仲間やコミュニティから離れているように見えます。しかし、そこで得た経験や能力を後に還元できれば、その時間も長い目ではコミュニティを豊かにする土壌になります。

多様な人々との関係を完全に断ち切る必要は必ずしもない。
むしろ関わり方や時間の配分は、人生の時期に合わせて変えてよいのではないでしょうか。

コミュニティは、人の成長を「待ち合える」

伊藤さんが立ち上げた「Tricky」は、現在の学生に実践機会を提供すると同時に、一度ユースキャリアを離れたOB・OGが戻ってこられる場所として構想されています。

伊藤さんは、会社とコミュニティの違いを「待てるかどうか」という言葉で説明してくれました。

伊藤さん:「会社、特に立ち上げたばかりの会社だと、どうしても今すぐ活躍してくれる人が必要になると思うんです。資金にも時間にも限りがあるので、『この人は5年後、10年後にすごく活躍するかもしれない』と思っても、そこまで待てないことがある。

でも、コミュニティだったら待てるんですよね。」

伊藤さん:「今すぐ一緒に仕事をすることができなくても、関係性を残しておけばいい。別の場所でそれぞれ経験を積んで、数年後にお互い成長したタイミングで、『一緒に仕事をしよう』となることもあると思うんです。

私自身、学生時代からつながっていた仲間に、何年か経ってから『一緒に仕事をしない?』と声をかけることがあります。

やっぱり、『信頼関係が10年ある人』と『即戦力として出会って1年の人』では違うと思っていて。今すぐ何かができなくても、安心して待てるというか。

お互いに別の場所で成長しながら、またいつか一緒に何かできる。そんな『待ち合える関係性』が、私はいいなと思っています。」

今すぐ何かが生まれなくても、関係を切らずにいれば、お互いの経験や実力が育った先で、再び道が重なることがある。

コミュニティには、同じ場所で活動する時間も、それぞれが別の場所で成長する時間も、長い関係の一部として包み込める価値があります。

戻ってこられる居場所を残しておくこと。そして互いの成長を待ち合えること。
そんな長い時間軸で人とつながれることも、コミュニティの価値なのだと思います。

親友だけではない。「弱い紐帯」が運んでくるもの

林さんは、多様なつながりのなかで、自分の生き方を一つに固定せずに歩んできました。一方、伊藤さんは、一つの仕事に力を集中させながらも、人との関係を細く長く残してきました。

歩み方は異なりますが、2人に共通していたのは、一つの役割やコミュニティだけに自分の人生を閉じなかったことでした。

2人の話から浮かび上がったのは、強く親密な関係だけでなく、多様な人との緩やかなつながりを残すことの大切さでした。

社会学者のマーク・グラノヴェターは、1973年に発表した論文で「弱い紐帯(ちゅうたい)の強さ」を論じました。

家族や親友のような強い関係では、似た情報や人間関係を共有していることが多くなります。一方、普段はそれほど頻繁に会わない知人は、自分とは異なる集団に属し、そこから新しい情報や機会を運んでくれることがあります。

つまり、異なる世界を結ぶ橋になることに、弱い紐帯ならではの強さがあるのです。

その後の研究では、弱い紐帯は仕事の機会だけでなく、日々の幸福感とも関係することが示されています。

Sandstrom and Dunn(2014)の研究では、学生は、普段より多くのクラスメートと交流した日に、幸福感や所属感が高い傾向を示しました。

林さんにとって、多様な大人との関係は、多様な生き方を肯定することへの支えになっていました。

伊藤さんにとって、異なる業界やコミュニティの人との関係は、自分に合う仕事や、一緒に働きたい人を見極めるための比較対象になりました。そして後には、相談、協業、仕事の受け渡しができる相手にもなっています。

弱いつながりは、すぐに成果を生むとは限らない。

2人の経験に照らして考えると、自分が行き詰まったときに別の見方を教えてくれたり、新しい場所への入口になったり、しばらく離れていた夢と再び出会わせてくれたりする可能性があるのではないでしょうか。

複数の居場所が、一つの役割に閉じ込められることを防ぐ

「複数の集団に所属すること」に注目した研究でも、複数の肯定的な集団所属が、ウェルビーイングや人生の変化への適応を支える可能性が論じられています。

会社にしか居場所がなければ、仕事がうまくいかないとき、自分の存在全体が揺らいでしまうかもしれません。

一方で、会社員としての自分だけでなく、学生時代の友人と話す自分、趣味を楽しむ自分、オンライン上での自分、コミュニティで誰かを応援する自分がいれば、一つの失敗が自分のすべてにはなりにくくなります。

これは、前回の記事で紹介した「自己複雑性」ともつながります。

自分のなかに複数の側面を持ち、それぞれを支える関係や居場所を残しておく。それは、夢を諦めずに進むための、心のポートフォリオとも呼べるかもしれません。

ただし、所属先を増やしさえすればよいわけではありません。すべての集団で大きな役割を担えば、それが抱えきれない負荷となり、かえって時間や心の余裕を失います。

大切なのは、それぞれの場所で全力を出し続けることではなく、その時々の自分に合った距離でつながることだと思います。近すぎて苦しくなる前に関わり方を調整することが、結果として、その人やコミュニティとの健やかな関係を長く保つことにつながるのかもしれません。

「辞めなければ大丈夫」

最後に、これから社会人になる若者に伝えたいことを尋ねると、伊藤さんは、こう答えました。

辞めなければ大丈夫。

コミュニティが今の自分に合わないなら、外に出てもいいし、忙しい時期には、関わりを減らしてもいい。夢の形が変わったなら、進み方を変えればいい。

それでも、何人かとの関係を残しておく。自分のなかにある小さな関心を、完全には手放さずにおく。

関係性も辞めない。自分のやりたいことも辞めない。辞めなかったら、いずれどこかで重なったりするから。

夢を追うことと、大切なものを守ることの間で、私たちは何度も揺れ動きます。
けれど、どちらか一方に振り切る必要は必ずしもありません。

1人で見始めた夢も、誰かとその景色を共有できれば、みんなの夢になります。
負荷が高すぎたら、タスクや役割を渡したり、ときには離れたり、時間を経て再び出会ったりしながら育てていくこともできます。

すべてを抱え続けるのではなく、細くても、未来につながる糸を残しておく。そして、自分一人ではできないことを、誰かに頼る。

そんな人間関係とコミュニティがあれば、私たちは大切なものを守りながら、自分なりの速度で夢を追い続けられるのではないでしょうか。

若者が幸せに挑戦し続けられる社会へ。
夢から一時的に距離を置いたとしても、夢を叶える手段をしなやかに変えたとしても、辞めなければ大丈夫。

私たちが幸せに挑戦を続けるためには、挑戦へと送り出してくれる場所と、ときに立ち止まり、いったん離れても、また戻ってこられる居場所。その両方が必要です。

そして、そんな居場所をつくるのは、長い時間をかけて紡いできた人とのつながりなのだと思います。


著者:井上寛人

ソーシャル・アントレプレナーのウェルビーイングを探究する研究者/実務家。明治大学在学中に若者による環境運動「Fridays For Future Tokyo」の立ち上げに関わり、自身や仲間の燃え尽き症候群を目の当たりにしたことをきっかけに、挑戦する人の心が壊れずにすむ社会のあり方を探究してきた。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。現在は武蔵野大学大学院ウェルビーイング研究科に在籍し、社会起業家をはじめとするソーシャルセクターのリーダーが抱える構造的ストレスの緩和と予防をテーマに研究している。


参考文献

  1. Granovetter, M. S.(1973)“The Strength of Weak Ties.” American Journal of Sociology, 78(6), 1360–1380. 
  2. Sandstrom, G. M., & Dunn, E. W.(2014)“Social Interactions and Well-Being: The Surprising Power of Weak Ties.” Personality and Social Psychology Bulletin, 40(7), 910–922. 
  3. Ysseldyk, R., McQuaid, R. J., McInnis, O. A., Anisman, H., & Matheson, K.(2017)“Multiple Group Membership and Well-Being: Is There Always Strength in Numbers?” Frontiers in Psychology, 8, 1038.