【研究】心を折らずに、自己実現への挑戦を続けるための方法とは?

一般社団法人ユースキャリア教育機構・研究員の井上寛人です。

本連載企画の4本目のテーマは「レジリエンス」と「グリット」。
つまり、“折れない心で自己実現をやり抜く”ことです。

自己実現への挑戦には、失敗やつまずきがつきものです。
それでも道を諦めずに進むためには、“折れない心”と“やり抜く力”が不可欠です。

そこで今回は、この2つのマインドセットを育てるための方法をお伝えさせていただきます!

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自己効力感を高める

一つ目は、自己効力感。これは、スタンフォード大学の心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で、「自分ならできる」「自分ならきっとうまくいく」と、自分の能力やスキルを信じられている認知状態を指します[1]。

「自信」に近いものですが、根拠のない自信ではなく、経験や根拠に裏付けられた“根拠のある自信”である点が特徴です。

自己効力感が高いとこんな良いことがあります。

① 立ち直りが早くなる(レジリエンス)
② 諦めない、やり抜く力が持てる(グリット)
③ 成長意欲が高まる(モチベーション)

自己実現を目指す私たちにとって、どれもとても強力な味方ですよね。
では、どうすれば自己効力感を高めることができるのでしょうか?

自己効力感を高める4つのアプローチ

ここでは「補助輪なしで自転車に乗れるようになりたい太郎くん」を例にご紹介します。

① 達成(成功)体験:自分で成功や失敗を経験する

まずは補助輪付きで練習してみます。最初は難しい…
それでも失敗を繰り返すうちに、少しずつ上手に乗れるようになってきます。

② 代理体験:他者の成功体験をお手本にする

補助輪を外した途端、バランスが取れない、、
そこで、お父さんが自転車に乗っている姿を観察します。

「お!なんとなくわかった気がする!」

③ 社会的・言語的説得:励ましの言葉による後押し

「やっぱり怖いな。転んだら痛いし、もうやめようかな。」
諦めかけたその時、お父さんが励ましてくれます。

「太郎くんならきっとできるよ!転ばないようにパパが押してあげる。まずはやってみよう!」

言葉の力で、太郎くんの背中がそっと押されます。

④ 生理的・情緒的状態の管理:心身のコンディションを整える

昨日はよく眠れて、ご飯もしっかり食べた。体は元気!
お父さんのエールで気持ちも前向きになってきました。

お父さんに背中を支えてもらいながら、太郎くんは補助輪なしの自転車を漕ぎ出しました。
最初はふらつきながらも、だんだん走りが安定してきます。

お父さんがそっと手を離すと……
ついに1人で乗れるようになりました!!やった!!

太郎くんの「自転車に乗れる」という自己効力感は、一気に爆上がりです。

あなたが“自己実現”のために伸ばしたいスキルは何ですか?

ぜひ、この4つのアプローチを通して、そのスキルへの自己効力感を高めてみてください。 そうすれば、あなたの中で“折れない心”と “やり抜く力” が確実に育っていくはずです。

セルフ・コンパッションを育てる

二つ目はセルフ・コンパッション。これは、“大切な友人に接するように、自分にも優しく接すること”を指す心理学の概念です[2]。
テキサス大学オースティン校のクリスティン・ネフ教授によって提唱されました。

セルフ・コンパッションが高いと、次のようなメリットがあります[3]。

①より幸福で、前向きで、楽観的になりやすい。

②不安や落ち込み、ストレスや恐怖を感じにくくなる。

③困難に直面したときのレジリエンスが高まり、目標へ向かって“やり抜く力”や決意を持ち続けやすい。

セルフ・コンパッションを高める3つのステップ

① マインドフルネス:今感じていることを偏りなく受け入れ、バランスよく気づく。

② 共通の人間性:自分だけでなく、人間なら誰でも同じように苦しむことを思い出す。

③ 自分への優しさ:自分に思いやりと励ましの言葉をかける。

ここでは、「シュークリームを落としてしまったキヨカさん」を、例にお話しします!

① マインドフルネス

自分へのご褒美に買ったシュークリームを落としてしまった。
あんなに楽しみにしてたのに…

すごくショックだし、「なんで私ばっかり、こんな目に遭うの?」

② 共通の人間性

でも、こういうことって誰にでも起こるよね。
大好物を落としたら、誰だってがっかりするものだし、私だけじゃないはず。

③ 自分への優しさ

今日は一日よく頑張ったし、落ち込むのも無理ないよね。シュークリームは残念だったけど、ここまで努力してきた自分のことを、ちゃんと大切にしてあげたい。

「また今度、おいしいスイーツ買いに行こうね」と、自分にそっと優しく声をかけてあげる。


セルフ・コンパッションは、自分を甘やかすような“弱さ”では決してありません。

むしろ大切な親友に優しく接するように自分を思いやることで、“母グマのように強いパワー”を、目の前の課題解決のために発揮できるのです。

あなたが自己実現の過程で心が折れそうになる瞬間があったときは、セルフ・コンパッションを思い出して、自分にそっと優しさを向けてみてください。

そうすれば、再び前に進む力が湧いてくるはずです。

“折れない心”と“やり抜く力”が回復する「ベントノール」

ここまででご紹介したような“内面的な力”は、実際にはどんな環境で育つのでしょうか?

「ユースキャリアには、“折れない心”と“やり抜く力”を育てるのにぴったりなコンテンツがある。」そんな噂を聞きつけ、10月のある土曜日の午後、私はオリンピックセンターへ向かいました。

その名も 「ベントノール」。

ここでは、普段のプロジェクトだけでは補いきれない、日常生活で必要となる基礎的な個人の力を伸ばすコンテンツが提供されています。

また、他プロジェクトとの交流の場としての役割も果たし、ユースキャリア全体をつなぐ大切な場所になっているそうです。

具体的にどんなことをしているの?

会場の扉を開けると、高校の理科室くらいの少し広めの部屋に、12名前後の若者たちの姿がありました。

  • 2人で会話する女性たち
  • パソコンを開き、先輩らしき男性の話を聞く男子学生2人
  • 黙々と作業に取り組む男女3人組
  • 颯爽と扉を開けるボーイッシュなファッションの女性

軽やかでリラックスした空気がその空間全体に広がっています。

ベントノールとは、「普段のプロジェクトでは補えない日常生活に必要な基礎的な力を伸ばす場」であり、さらに「プロジェクト横断の交流によってユースキャリア全体をつなぐ」役割もあるとのこと。

たしかに、普段は別々のプロジェクトに所属しているメンバーが、今日は緩やかに同じ場所に集まっていました。しかも、運営メンバーの比率が高く、マンツーマンや1対2くらいの割合で研修生の相談に乗っている様子も見受けられます。

「なんだかいつもと違う。面白そう!」
そう思い、私もしれっと中に混ぜてもらうことにしました。

緩さと本気が交差する空間

グループの中にお邪魔して話を聞いていると、1人の研修生は就活の相談をし、別の研修生は自分が取り組む活動について運営メンバーにアドバイスを求めていました。

と思ったら、話題は突然サウナへ。
行きつけのサウナ「ドラゴンサウナ」がいかに“やばい”かという話で大盛り上がり。

その一方で、別の席では、とあるプロジェクトの中間報告の準備を黙々と進める女性たちもいます。

真面目に自分と向き合う時間と、雑談を通じて仲間と情緒的につながる時間。
そのバランスが絶妙で、「これはすごいコンテンツだ」と確信しました。

別の卓を覗いてみると、近々開催されるビジネスコンテストのフライヤーを作っている男性がいました。その隣では、昨年そのコンテストに参加した女性2人が、デザインについて壁打ちをしています。

さらに別のテーブルでは、最近入ったばかりの女性が、先輩にユースキャリア全体の仕組みを熱心に質問していました。
 

心理的安全性のある居場所

それぞれが自分のテーマに、自分のペースで向き合いながら、必要なときは先輩の力を借り、真剣に、でも気楽に取り組んでいる。

その姿を眺めながら、「ここは、小さな成功体験や自信を積み重ねられる“心理的に安全な居場所”なんだ。」と感じました。

レジリエンス と グリットが自然と育つ場所

ベントノールでの体験は、今回のテーマであるレジリエンス(折れない心) とグリット(やり抜く力) が、どのように育まれるのかを見せてくれるような時間でした。

たとえば、雑談を交えながら悩みを共有し、仲間と笑い合うリラックスした空気。そして、後輩の相談に対して、アドバイスというよりも、相手にしっかり関心を寄せて共感していた先輩の姿。その関わり方からは、揺らいだ心がそっと回復していく温かさを感じました。

また、個人作業に没頭しながらも、必要なときは素直に先輩へ助けを求める研修生たち。
それはまさに、目標に向かって粘り強く取り組み続けるグリットを体現していました。

ここには、挑戦する姿勢と心を緩める時間 のちょうどいいバランスがあります。
だからこそ、若者たちは自然と「折れない心」と「やり抜く力」を育てているのだと思います。

おわりに

自己実現の道のりでは、心が不安定になったり、自信を失ったりする瞬間が必ず訪れます。
でも、それは誰にでも起こる自然なことです。

そんな時にあなたを支えてくれるのが、何度つまずいても立ち直る力(レジリエンス) と、目標に向かって粘り強く進み続ける力(グリット) です。

そしてこの2つの力は、特別な才能ではありません。日常の小さな挑戦や、人との関わりを通じて、誰でも少しずつ育てていくことができます

ベントノールのように、気楽に参加できて、小さな成功体験を積める“心理的に安全な場所” は、レジリエンスとグリットを育む理想的な環境です。

あなたももし自己実現の途中で心が折れそうになったら、どうかひとりで抱え込まずに、誰かがそっと背中を押してくれる場所に訪れてみてください。

きっとその環境が、あなたの挑戦を支え、再び前へ進む力を取り戻させてくれるはずです。

参考文献

1.工藤紀子(2024)『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』総合法令出版

2.若杉忠弘(2024)『すぐれたリーダーほど自分にやさしい 疲れ切らずに活躍するセルフ・コンパッションの技術』かんき出版

3.クリスティン・ネフ(2023)『自分を解き放つセルフ・コンパッション』英治出版