一般社団法人ユースキャリア教育機構・研究員の井上寛人です。
2025年が終わり、2026年が始まろうとしていますね。
年末年始は、立ち止まって1年を振り返り、新しい年を思い描くのにぴったりのタイミングです。
今回のテーマは、
「1年間の振り返り」と「やる気が自然に続く目標設定」。
新年の目標って、毎年立てるものの、
いつの間にか忘れてしまったり、三日坊主で終わってしまったり……そんな経験、ありませんか?
本記事では、モチベーションの心理学を手がかりに、
「やる気が自然と続く」目標設定のヒントをお届けします。
実践編:振り返りワークの紹介
前回の記事でご紹介したコミュニティ「ベントノール」では、12月20日に「2025年振り返り/2026年目標設定会」を実施しました。
この記事では、そこで実際に行ったワークの一部をご紹介します。
ぜひ、ノートやメモアプリを用意して、一緒に取り組んでみてください。
振り返りとウェルビーイングの深い関係

まずは声を大にして言わせてください。
2025年の1年間、みなさん本当によくがんばりました。えらい。えらすぎる。
実は、1年を振り返ることには、
自己肯定感やウェルビーイングを高める効果があることが知られています。
過去の出来事や経験を振り返ることで、
- どんな困難を乗り越えてきたのか
- 何を学び、どこまで成長できたのか
を客観的に認識できるようになるからです。
まずはぜひ、
「よくやった、自分!」
と、2025年の自分をねぎらってあげてください。
振り返りは、自己実現とも深く関わっています。
自分の成長や学びを整理することで、
「これから何を大切にしたいのか」
「どんな未来を目指したいのか」
が自然と見えてきます。
それが、次の一歩へ進むモチベーションになります。
Step1:2025年を月ごとに振り返る
まずは、2025年を月別に振り返っていきましょう。
ノート・スプレッドシート・メモアプリ、何でもOKです。

振り返りの観点
各月について、次の項目を書いてみてください。
まずは、2025年の各月について、その月の充実度を「-100(最低)〜100(最高)」で入力します。その際、次の観点で各月の振り返りをしていきましょう。
✔ その月の充実度(−100〜+100)
✔ その月を「一言」で表すと?
✔ 主な出来事
✔ Good(よかったこと)
✔ More(もっとできたこと)
例:私の2025年1月
- 充実度:50
- 一言:平和 / カルチャーの月
- 出来事
- ユースキャリア新年会
- Podcast企画の収録 / ZINE作り
- クリープハイプ×indigo la Endの対バンライブ
- Good:
- 趣味プロジェクトをコツコツ楽しめた
- More:
- 年間目標を立てていなかったので、時間をうまく使えなかった
Step2:2025年を1年単位で振り返る

次に、月別の振り返りを踏まえて、2025年全体を振り返ります。
✔ 2025年に点数をつけるとすると?
✔ 一言で表すと?
✔ 印象的だった出来事
✔ Goodだったこと
✔ Moreだったこと
例:私の2025年
- 点数:80
- 一言:自分の得意なこと・好きなことでお金をもらえるようになった年
- 出来事:
- 大学院合格 / 調査研究関連の仕事を複数いただけた。
- パートナーや仕事仲間など大切な人と深く接する中で、自分の価値観への理解が高まった。
- たくさんのソロアーティストのライブを観に行って、自分らしく活躍している人々の共通点を探した。
- Good:
- 本業の会社で社会人2年目を全うできていること
- 副業を増やしたり、大学院に合格したり、社会人になっても自己実現を目指し続けられていること
- 大切な人との価値観の折り合いに真剣に向き合えたこと
- More:
- 何度かお金を無駄遣いしてしまったこと
Step3:気づきと「価値観」を言葉にする
最後に、この1年を通して得られた
気づきとあなたが大切にしている価値観を整理します。
ここが、このワークのいちばん重要なポイントです。
価値観とは、あなたの行動を内側から動かしているモチベーションの源泉だからです。
心理学から見る、このワークの良さ

心理学では、モチベーションは大きく次の2つに分けられます(1)。
- 内発的動機づけ
「楽しい」「意味がある」「成長している」と感じるからやる、
というように、行為そのものが目的になるモチベーションです。 - 外発的動機づけ
「報酬のため」「怒られないため」にやる、
というように、外からの要因によって生まれるモチベーションです。
一般に、長く続きやすいのは内発的動機づけだと言われています。
なぜなら、それは人がいきいきと行動するために必要な、次の3つの心理的欲求を満たしやすいからです。
- 自律性:自分で選んでいる感覚
- 有能感:成長している感覚
- 関係性:誰かとつながっている感覚
これは、「人はどんなときに、自発的に・健康的に・持続的に行動できるのか」
を説明する「自己決定理論」の中核となる考え方です。
振り返りワークを通して価値観を言語化することは、
言い換えれば、自分の内発的動機づけを掘り当てる作業でもあります。

とはいえ、正直に言うと、
実際にこのワークをやってみて、怠け者の私は
「もし1人だったら、絶対できないな……」と思ってしまいました(笑)。
なのでぜひ、
「友達と約束してカフェで一緒にやる」
「コミュニティの振り返り会に参加する」
など、外発的動機づけもうまく利用しながら進めてみてください。
人は「空欄」があると埋めたくなる習性があります。
まずはやり始めてみると、意外とサクサク進むはずです。
ワクワクする未来を描こう
研究から、
幸せな人ほど、長期的・大局的な視点で物事を見ることが分かっています(2)。
未来への希望やビジョンを持つことで、
困難な出来事を「一時的なもの」と捉え、うまく乗り越えやすくなります。
もちろん実現する可能性も、ビジョンを描いたほうが高まります。
また、社会学者のロバート・キング・マートンが提唱した「自己充足的予言」の考え方によれば、自分自身への期待やビジョンを持つことで、それが実際に行動に移され、実現していくと言われています。
というわけで、早速2026年の目標設定をやってみた!

ここからは、振り返りをもとに2026年の目標設定をしていきましょう。
今回も具体例として私の内容をシェアさせていただきますね。
- 理想の2026年は?
- (価値観をヒントに、自由に)
- それを実現している自分は、どんな姿?
- (感情や状態も含めて)
- 2026年の目標は?
- (ありたい姿から逆算して)
例:私の2026年の目標
- ① 理想の2026年は?
- ライスワーク(生活のためのお金を稼ぐ仕事)の時間が減り、ライフワーク(人生をかけた自分がやりたい仕事)の時間が増えることで、より私らしくいられる時間が増える1年にしたい!
- ② それを実現している自分は、どんな姿?
- 自分があまりやる意味を感じないことにエネルギーを使って、消耗する時間が少なくなる。その分、自分らしくいられる瞬間が増えて、前よりもずっと生き生き過ごせるようになる。
- ③ 2026年の目標は?
- 「とりあえず生活のために働く」だけじゃなく、自分がやりたいことをしながら、ちゃんと生活できる収入を得られる状態になること。
- 「社会起業家やNGO・NPOリーダーのウェルビーイング専門家」として、世間一般でなくていいので、まずは2026年までにお会いした/する人々に認知されるようになること
短期目標にブレイクダウンする
長期目標は、3か月ごとの短期目標に分けると続きやすくなります。
ポイントは3つ。
- 長期目標とつながっていること
- 定量的・計測可能であること
- 少し難しいが、達成可能であること
また、同じ目標を持つ仲間のいるコミュニティに入るのもおすすめです。
目標は「口に出す」と叶いやすくなる
目標が決まったら、ぜひ口に出してみてください。
社会心理学者のロバート・チャルディーニが提唱したコミットメントと一貫性の原理によると、人は「一度決めたこと」「公に表明したこと」と一貫した行動を取りやすくなります(3)。
その理由は、
- 認知的不協和を避けたい
(=「言ったこと」と「実際の行動」が食い違うと、無意識にモヤモヤや不快感を覚え、それを解消しようとする心理) - 自己イメージを守りたい
(=「自分は信頼できる人間」「言ったことを守る人でありたい」という自己像を崩したくないという欲求) - 社会的評価を意識する
(=周囲からどう見られているかを気にし、「言ったまま何もしない人」だと思われたくないという心理)
といった心理が働くからです。
まとめ:自己実現は「内発的動機」で楽しもう
心理学者のアブラハム・マズローは、自己実現を次のように定義しました(4)。
自己実現とは、その人が潜在的に持っている可能性を実現しようとする傾向であり、「より自分らしく生き、自分がなりうる存在になろうとする願い」である。
目標は、誰かにやらされるものよりも、あなた自身の内側から湧いてくる動機から生まれたものの方が、そのプロセスは楽しく、続けやすくなります。
ぜひ2026年は、
内発的動機ドリブンな自己実現の1年を、思いきり楽しんでみてください!
参考文献
(1) 鹿毛雅治(2023)『モチベーションの心理学――「やる気」と「意欲」のメカニズム』中央公論新社(中公新書)
(2) 前野隆司・太田雄介(2023)『実践!ウェルビーイング診断』ビジネス社
(3) Cialdini, R. B. (2009). Influence: Science and Practice (5th ed.). Pearson Education.
(4) Maslow, A. H. (1970). Motivation and Personality (2nd ed.). Harper & Row.
(マズロー,A. H. 著,小口忠彦 訳(1987)
『改定新版 人間性の心理学――モチベーションとパーソナリティ』産業能率大学出版部)


